2023.06.26
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2017.01.28
「選球眼」「ボールから眼を切るな(離すな)」「バッティング・アイ」などの眼に関する言葉があるように、ボールを見ることとプレーが直結しているということを選手や監督、コーチ、保護者の方もなんとなく感じていることだと思います。
視線とボールのズレが大きければ、どんなに素晴らしいスイングを行ったとしても、正確にバットで捉えることは困難です。
ピッチャーが投げたボールを瞬時に把握し、長く追跡できれば、実際のプレーでどれだけ有利なのか簡単に想像できると思います。
しかし、打者の練習といえば、スイングすること以外ほとんど行われることはありません。
今回は、バッティングのメカニズムについて説明したいと思います。
打者は、高速で変化しながら動くボールに対し、眼からコースや球種、スピードなどの情報を収集し、次に脳がその情報をインプットして、打つか見送るかなどの選択と判断を行い、脳から筋肉へと指令を送ることで身体が反応し、スイングへと導いています。
さらにスイングを開始した後も、視線をボールに合わせ追跡し続け、わずか6cm弱のバットでボールを捉え、打ち返す必要があります。
このように打者は、コンマ何秒の間に、
①見る(ボールを認識する・捉える)
②選択(考える)、判断(決定する)、反応(動く)
③スイング
④ボールの追跡
⑤コンタクト
といったサイクルを一打席ごとに行っているのです。
バッティングが、あらゆるスポーツの技術の中で、もっとも難しいといわれるのも頷けますね。
投手は、120km/hストレート(4シーム)、打者のスイング時間は0.17秒、投手のリリースポイントからホームベースの距離17mと仮定して説明していきます。
※ピッチャープレートとホームベースの距離は18.44 mですが、投手のリリースポイントは 1.44m(もちろん選手により異なります) ほど手前になると仮定して距離 17m として計算。
球速が120km/hの場合、ホームベースにボールが到達するまでの時間は、約0.51秒になります。
120km/hの球速でもたった0.51秒で目の前を通り過ぎる!!
めちゃくちゃ速い・・・。
眼から情報を得て、映像として認識できるまでに0.1秒程かかると言われています。
今見えている世界は、0.1秒後の世界ということです。
ボールを眼で捉えたとき、距離にするとリリースから1/5の地点、約3.33m進んでいることになります。
バッターは、高速で動くボールを眼で正確に捉えるため、投球腕の肘付近に視線を合わせておくのが理想です。
熟練のバッターは、投球動作を予測して、投球腕が振られるであろう位置に予め視線を固定させ、投球腕の肘近辺を中心に見ながら、周辺視野で投手像全体を捉えていることがわかっています。しかし、競技経験の浅い非熟練のバッターは、頭部を中心に下半身にかけて幅広い範囲に視線が向けられています。
参考文献:加藤 貴昭, 福田 忠彦:野球の打撃準備時間相における打者の視覚探索ストラテジー,人間工学,333-340,2002
ただし、投球動作を開始する前から一点を集中してフォーカス(焦点を合わせる)を続けていると、力が入りすぎてしまい、目(毛様体筋)の筋肉の緊張、弛緩がうまくいかなり、ピントが合わない(ボールを鮮明に捉えられない)状態になる可能性があるので注意が必要です。
そのため、目の筋肉の緊張を抑え、ピント調整をうまくするために、視線を合わせるタイミングも重要なポイントです。
ボールを認識後、コースや球種、スピードなどの情報を収集し、打つか見送るか、打つ場合はどの方向を狙うのかなどの選択と判断を行い、スイング、見送るといった反応を行います。
これらが行える時間は、約0.24秒。
距離にするとリリースから2/3の地点、約11.34mまでに反応しなければなりません。
この時間を過ぎてからスイングを行っても、振り遅れてしまいます。
学年やレベルがあがれば、当然球速も上がりますので、さらに短い時間で対応しなければなりません。
O-Swing%が低くZ-Swing%が高い打者は、選択・判断・反応のサイクルが速いといえるでしょう。
日本人でこの数値が高かったのが松井秀喜選手です。(現役時代、常にMLB全体で10本の指に入るレベル)
※O-Swing%:ボールゾーンスイング率。ストライクゾーン外の球に対し、打者がスイングした割合。
※Z-Swing%:ストライクゾーンスイング率。ストライクゾーンの球に対し、打者がスイングした割合。
一般的に選球眼というとストライクかボールかを見極める能力のことを指しますが、選球能力が高いだけでは不十分です。
ストライクゾーンはスイング、ボールゾーンは見送るといった身体の素早い反応が伴って、初めてパフォーマンスとして発揮されます。そのため、選択・判断・反応を一つのユニットとして考え、強化していく必要があります。
スポーツビジョン能力の中でも重要なのが、一瞬にしてコースや球種、軌道など多くの情報を得る力「瞬間視」、高速で動くボールを正確に目で追跡する力「動体視力」、見たボールに対し、素早く正確に身体(手)を動かす力「眼と手の協応動作」。
これらのスポーツビジョン能力が、選択・判断・反応を良くするために重要な役割を果たしています。これらの能力は、トレーニングによって向上できることがわかっています。
スポーツビジョン能力については過去のコラムに詳しく書いていますので合わせてみてください。
スポーツビジョンを鍛えろ!スポーツにおける眼の役割と重要性
人は選択肢が多くなると、その分、意思決定する時間が長くなることが明らかになっています。(ヒックの法則と呼ばれています)
つまり多くの選択肢があると、選ぶのに困るということです。
球速が150km/hにもなれば、プロの打者でも全ての球種やコースを待って打つのは困難です。
そこで、投球前からそれまでの配球や投手の調子、カウントなどから予測範囲を絞っています。
予測を行うことで判断する選択肢を限定し、素早い反応を可能にしています。
この予測能力を上げるためには、スタッツやセイバーメトリクスのデータ活用、野球の実践経験も必要になります。
また、投球前の予測だけでなく、1打席ごとに眼から得られる球種のクセや軌道などの情報量が多ければ、判断材料が増えるため、スポーツビジョン能力も大きく影響すると考えられます。
スイングの基本は、ボールの軌道に合わせて全身の力をロスすることなく、速く強い力でスイングすることです。
ボールの軌道に合わせてスイングを行うことで、コンタクト率(バットにボールを当てる)を向上させることができます。
自分のバットスピードがどれぐらいか知っている選手は多いと思いますが、スイング時間に関しては、ほとんどの選手が知りません。
スイング時間が短い選手は、選択・判断にかかる時間をより長く確保することができるため、自分のスイング時間がどれぐらいか知っておくことは、バッティングスタイルを確立させるための重要な要素になります。
スイング時間の計測は、最近増えてきているバッティング用の野球ウェアラブルセンサーで簡単に計測できます。
※バットスピード:スイングスピードのピーク値のこと。(数値が高いほど強い力でボールが打てます)
※スイング時間:スイング開始からボールコンタクトするまでにかかる時間のこと。(時間が短いほど見る時間を長く確保できます)
ボクシングに例えてみましょう。
バットスピードは速いがスイング時間が遅い。
わずか6cm弱のバットでボールを捉えなければいけないバッティングでは、選択判断反応するための時間が短い「大振りのパンチ」で、結果を残し続けることは、できないでしょう。
バットスピードは遅いけどスイング時間は速い。
コンスタントに結果を残すにはヘッドスピードよりスイング時間を重視したほうが良いですが、もっとも大切なのはヘッドスピードとスイング時間のバランスです。
バットスピードが速くスイング時間も短い。
目指すべき理想ですね!正しい軌道で再現性も高ければ言うことなしです。
いかがでしょうか?
決してバットスピードだけが速ければ良いという訳ではないということがお分かりいただけたかと思います。
もちろん、試合では大振りのスイングも必要な時が来るかもしれません。そういったケースに備え、予測力を高めておくと良いでしょう!
以下の数値はアベレージではないため一つの指標として参考にしてください。
小学生(全国レベル):0.2秒〜0.21秒
中学生(全国レベル):0.15〜0.17秒
高校生(甲子園レベル):0.13〜0.14秒
NPB(日本プロ野球):0.12〜0.13秒
MLB(メジャーリーグ):0.1〜0.13秒
ボールをできる限り追跡することは、「イメージとの誤差」をなくすことに繋がります。
Contact%が高い打者は、ボール追跡能力が高いといえるでしょう。
日本人でこの数値が高いのがイチロー選手です。(常にMLB全体で10本の指に入るレベル)
※Contact%:コンタクト率。打者がスイングした際、打球(ファウルボールも含む)が発生した割合。
イチロー選手のエピソードとしては、小学3年生から高校に進学するまでの7年間、毎日バッティングセンターに通い、1日125球バッティングの練習をしていたそうです。さらにイチロー選手の父は、選球眼を鍛えるものバッティングセンターに通う目的の一つと考え、ボール球は振ってはいけないと指示していたといいます。継続してスピードボールを見続けたことで、ボール追跡能力向上に貢献したと推測できます。
参考文献:田尾安志:イチロー進化論,小学館,2001
参考文献:永谷脩:イチロー「勝利の方程式」,王様文庫(三笠書房),2002
※弊社の顧問でもあるスポーツビジョン研究の第一人者である石垣尚男先生が実際にイチロー選手が通っていたバッティングセンターに訪問し、お店の方からの証言もあり
見えていない時間が長くなればなるほどイメージとの誤差が広がり、正確にボールを捉えることが難しくなります。
スポーツビジョン能力の一つである動体視力がボールの追跡を良くするために重要な役割を果たしています。
空振りが多い選手やバントが苦手な選手は、スイング技術・バント技術だけが原因ではなく、見えていない距離が長いために、イメージと一致せず、ボールが当たらない、コンタクトしないという結果になっている可能性が考えられます。
スポーツビジョン能力については過去のコラムに詳しく書いていますので合わせてみてください。
スポーツビジョンを鍛えろ!スポーツにおける眼の役割と重要性
米大学生の場合(球速120km/h時)ホームベースの手前2.7m(誤差2度以下)までの距離であったのに対し、MLB選手(メジャーリーガー)の場合(球速120km/h時)ホームベースの手前1.7m(誤差2度以下)までの距離まで追跡できた。
参考文献:R. G. ワッツ,A. T. ベイヒル:ベースボールの科学―ボールから目を離すな―, サイエンス社,1990
このようにボールの追跡にも個々に能力差があるのです。
技術で劣る大学生の方が遠くからコンタクト位置を予測していては、メジャーリーガーよりコンスタントに良い成績を残すことはできないでしょう。
多くの練習をこなし、スイングフォームを修正し、パワーを身につけたとしても、1mもの距離の差を埋めることは果たしてできるのでしょうか?
もし、メジャーリーガーと同じ距離までボールを追跡できる権利があるとすれば、すべての選手が、メジャーリーガーと同じ位置、あるいは、もっと手前まで見たいと思うでしょう。
なぜならその方が簡単だからです。
眼を鍛えることは、一歩一歩手前まで追跡できる権利を得ることに繋がります。
もちろん、全員がメジャーリーガーの位置まで追跡できるかといえば、わかりません。
しかし、確実に近づくことができるのです。
※球速が120km/hより速くなると見えない距離も当然伸びていきます。また、球速には初速と終速があり、視覚のデッドライン(ボールを追跡できる限界値)は球種によっても異なります。
選手もコーチもバッティングの際「頭を動かしてはいけない」という共通認識を持っていますが、これは間違いです。
良い打者は、ボールを追跡する際、前庭や視覚の連合反射をうまく抑えて、目と同じ方向に頭も10度から20度程度動かしています。
頭を動かさないということは、ボールの追跡を諦めるということと同じことです。
問題となるのは、身体と一緒に頭が回ってしまうことです。
頭を大きく動かしてしまうスイングや身体の動きは、ボールの追跡に影響を与えてしまいます。
ではアドバイスするとしたら?
「ボールを見るために目と頭を動かすのは良いけど、身体ごと頭を動かしてはいけない。」
遠くからでも気づくぐらい身体と一緒に頭を大きく動かさなければ、目と頭で自然にボールを追跡すればいいのです。
コンタクトの瞬間(バットにボールが当たる瞬間)は、「視覚能力」の限界(追跡できない)を越えてしまい、見ているつもりでも見えていません。
実際は、周辺視で白いものがぼんやりと見えていますが、バットにボールが当たる瞬間が見えたり、縫い目やマークなどが見えるということは絶対にあり得ません。
眼から得た情報をもとに正確にバットでボールをとらえるためには、ボールの追跡力やスイングフォームの正確性が必要です。
普段、振る(スイング)練習ばかりしていると思いますが、スイング以外にもスポーツビジョン能力を向上させ、素早く正確な判断と反応、そしてボール追跡力を磨くことで、イメージとの誤差を最小限にすることができます。
もちろん、主役はスイングであることは間違いありません。
しかし、スイングだけが良くなっても、打てない原因は他にもあるということです。
実際のバッティングでは、この一連のサイクルのどれか一つ欠くことなく全てをスムーズに実施していかなければならないのが、難しいところです。
まずは、自分の長所・短所を知り、自分のバッティングスタイルを見つけることが成功への近道!
大橋浩史(Hiroshi Ohashi)
ヘルスラボ代表。1982年生まれ、東京都出身。スポーツビジョン研究及び投球・打撃動作分析を担当。
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